リレーBLOG第13弾「橋梁の新しい調達方法について」
MOT10期生の永元です.三井住友建設で橋梁の設計,施工,技術開発などをやっています.現在は建設に関係する学会活動や,開発した技術の社会実装なども行っています.
前回の9期の阿久津さんから間が空いてしまいました.
阿久津さんからナイスパスがあったので、当方が得意分野の橋梁について呟いてみたいと思います.
■地域社会における橋梁への社会的要求
2030年以降の近未来において,我が国では少子高齢化が進むとともに首都圏への人口集中の傾向は依然として継続していると考えられる.一方で,地方では過疎化が進み限界集落の問題がより深刻化する箇所と,働き方の多様化や地方創生方策が実を結び,発展を遂げている地方と二極化が進むことも想定される.また,既存橋梁の高齢化が進み,その維持管理が大きな社会問題となっているであろう.
このように社会が大きく変化していく流れにおいては,橋梁のあるべき姿が変化していくのは必然であり,我々土木技術者はその社会的なニーズに応えていくことが求められる.例えば,地方においては人口の増減や生活スタイルの変化などにより,必要となる交通ネットワークが急速に変化するであろうし,その際には廃止される橋梁と新しく必要となる橋梁が混在することになる.すなわち,今後は社会の変化に有機的に適合していく柔軟性が橋梁などの社会資本にも求められる.
一方,既存橋梁群の維持管理においては,多くの橋梁が高齢化し劣化するため,その補修補強が必要となるが,担い手不足や予算の関係があり,その対応に苦慮することが想定される.このため,各橋の劣化度合とその進行予測を精度よく行い,それぞれの橋梁群あるいは交通ネットワークにおける合理的な維持管理のシナリオデザインが求められる.この基本は定期的に行われる各橋梁の健全度評価であるが,この評価には専門的な知識が必要であるとともに,コンクリート構造物などはその内部の劣化が見えないため,評価に不確実性が生じ適切な維持管理の弊害となっている.
さらに,カーボンニュートラルという観点からみると,建設産業は全排出量の約1割を占める(関係する周辺の排出量を含む)といわれており,その低減が社会的な要求となっている.
■新陳代謝する交通ネットワーク
前記のように将来にわたり社会全体が有機的に変化し,それに伴い必要となる交通ネットワークの形も変化していく.この傾向は高速道路や主要幹線道路よりも地方の生活道路により顕著に表れる.このため,我が国における全橋梁約72万橋の約8割を占める生活道路上にある橋長2~15m程度の小規模橋梁において,ニーズの変化に応じて設置・撤去が容易に行える機能を有していることが有効となると考えられる.さらに,短期間の供用にとどまった橋梁が別の地点で再利用できれば,コスト面,環境負荷面など様々な利点がある.すなわち,交通ネットワーク版の‘メタボリズム’とでもいうべき可変性が重要になると考えられる.
小規模橋梁において施工の簡易化,急速施工が求められる場合,一般的にあらかじめ桁を造っておくプレキャストPC桁橋などが採用されることが多いが,撤去の容易性や積極的な再利用まで考慮されているとは言い難い.
■循環型の橋梁部材の実現
将来の社会的な要求にこたえるためには,解体・再利用が容易な橋梁が望ましく,ライフサイクルコスト,ライフサイクルCO2排出量の観点から,解体された部材は何度も再利用できるよう,高い耐久性を有していることが望まれる.この一例として,高強度高耐久コンクリートとスーパー繊維と呼ばれるアラミド繊維を適用した「アラミドFRPロッド」などの非腐食性の補強材とを組み合わせた「さびない橋」を,解体可能な接合方法で組み立てた橋梁の適用が考えられる(図-1).
将来的に状況が変わり撤去する際には建設と逆の手順で桁を分離,メンテナンス工場に移送し,清掃作業や部品の健全度評価を行う.その健全度評価に応じたランク分けを行い,次回の使用時にはそのランク分けをもとに耐力照査を行い使用する(さびない橋は,2度目も同じ耐力として使用可能).一度使用した部品を撤去,再利用することにより2回目以降の初期コストとCO2排出量の縮減が可能となる(橋梁は建設時に多くのCO2を排出する).これにより,橋梁のサーキュラーエコノミーが実現できる.
このサイクルを社会実装するためには多くのステークホルダーがアクセス可能な中古部品のデータベースが必要である.このデータベースでは,保管している工場,部材の種類,使用履歴,ランク分けなど登録されており,関係者が自由に検索,価格交渉ができることが前提となる(図-2).さながら,中古車のオンライン検索システムである.当然,登録データの信頼性が必要であるため,認証システムも必要となる.
さらにこれが進むと部材のリースという考えが出てくる.すなわち,地方自治体などは必要な部材をリースで調達し,一定期間供用する.期間満了時に継続して使用したい場合は延長契約を締結する.自治体としては初期の建設投資を低く抑えることができ予算の平準化と建設の迅速化が期待できる.特に,近い将来,移設や廃止の可能性がある路線などへオペレーションリースとして適用することで効果を発揮する.一方,このことにより橋梁部材のリースという新しい業態が創設される.当然,このシステムの実用化には公共調達のシステム変更や品質保証の問題など,解決すべき様々な問題があるし,高い信頼性を持って再利用できるように回収部材の健全度診断とその認証システムも重要である.ただ,社会全体としての交通システムの柔軟性や建設コストの縮減,カーボンニュートラル社会への貢献と得られるものは大きい.来るべき将来,このプレキャスト部材のリユース市場が拡大し,様々な部材が調達・選択可能となる市場が形成され,「規模の経済」により効率的に機能することを期待している.
以上,私が夢見ている橋梁の将来を呟いてみました.興味のある方は,このような社会の実現を一緒に検討しませんか?