リレーBLOG第11弾「スタートアップ 千三つの困難な道」

MOT2期生の室内(ムロウチ)です。卒業して早16年。学んだMOTの知識は、査読付き論文の投稿や特許の取得を経験し、商社で実践を積んで、知恵となって生かせていると感じています。今回、最近の仕事について書いてみようと思います。

スタートアップ*1 千三つの困難な道


*1. ここでは、技術やアイデアによって新しい市場やビジネスモデルを作り出し、短期間で上場を目指す、あるいは上場した、設立間もない会社とします。

会社にとって「利益」はすべての源(みなもと)です。もし会社が利益を継続的に出していなければ、いずれ市場から退出することになるでしょう。利益を出す唯一の方法は、安く仕入れて、高く売る。しかし、当社(株式会社 Magic Shields(マジックシールズ))は創業して3年間、利益を稼げず、赤字続きです。CYBERDYNE株式会社のように赤字続きでも拡大を続けるスタートアップは、日本経済の救世主になれるのか?あるいは、詐欺師で終わるのでしょうか?

表. 当社の主な特徴

株式会社メルカリ当社(MagicShields)
本社の場所都市(港区)地方(浜松市)
業種インターネット関連製造業
マーケティングオンラインオフライン
取引の形態BtoCBtoB

利益を出している実績または担保を持っていないと、銀行は融資してくれません。そのため、多くのスタートアップは、新株の割当と引き換えに資金を調達するエクイティファイナンスを目指しています。当社もエクイティファイナンスのひとつ第三者割当増資で、個人投資家とベンチャーキャピタル(以下、VC)から2年間で1.6億円を集めました。その他に、国や地方自治体の補助金も大切な資金調達のひとつです。浜松市のファンドサポート事業では5千万円の交付金を受け取りました。毎年4月になると複数の補助金に応募して、研究開発に充てているスタートアップは少なくないでしょう。

当社は2021年にジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト(経済産業省主催)グランプリRise Up Festa(MUFG主催)最優秀賞、2022年に始動Demo Day(経済産業省主催)グランドチャンピオンなどを受賞し、経済産業省にてJ-Startup企業に選定されました。J-Startup企業には、株式会社メルカリ株式会社ラクスル株式会社SmartHR株式会社ビズリーチ株式会社エクサウィザーズなど有望なインターネット関連の企業が名を連ねています。しかし、当社のような製造業の企業は、株式会社ユーグレナWHILL株式会社など僅かです。その主な理由は、VCが求める圧倒的なスピードと関係があります。

投資ラウンドでみると、2023年1月現在、当社はシードとシリーズAの間になります。「鴨の水掻き」とは良く言ったもので、残念ながらシリーズAの基準を満たせずに躓きました。シリーズAでは、利益より売上が優先されます。言い換えると、市場にニーズがあって、投資に値する市場規模があることを証明する段階です。利益を第一に考えなくて良いので、営業部門は市場に合わせて商品を安く売ることができ、研究開発部門は商品の機能を最優先にできます。その代わり、指数関数的な売上拡大「例えば、昨年度比売上50倍」をVCから求められます。このことは設備投資が必要な製造業と相性が悪く、さらに、転倒骨折を予防する当社の商品は高齢者をターゲットにしているので、最近のオンラインマーケティングは効果を期待できません。それでも、テレビの音量を上げずに言葉がくっきり聞こえる「ミライスピーカー」を販売する株式会社サウンドファンは急成長を成し遂げています。このような事例を見習い、知恵を出し合って、早いスピードで小さく実行する、その結果をもとにより良い知恵を出す、というサイクルを今まさに繰り返しています。

図. 投資ラウンドの例(引用元:東大IPC


材料のイノベーション メカニカル・メタマテリアルが描く未来

 メカニカル・メタマテリアルという単語を初めて聞く方もいるかと思います。メカニカルは「機械の」とか「機械的」と日本語に訳します。メカニカル・エンジニアリング(機械工学)、メカニカル・ミリング(機械的粉砕)、メカニカル・アロイング(機械的合金化)のように使われています。メタマテリアルとは「自然界の物質にはない振る舞いをする人工物質」のことで、例えば、人工磁性体や人工誘電体があります。当社のメカニカル・メタマテリアルを応用した商品は、厚さ2cmのエラストマー*2で作っています。
*2. ゴムのように弾性をもつ高分子材料。

写真. ベッドサイドに敷いた当社の商品

 メカニカル・メタマテリアルの面白さは、構造によって新たな特性をもつところです。そのため、ありふれた材料を使うことができます。構造によって新たな特性をもつモノとして皆さんがよく知っている「ばね」があります。ばねはその構造によって押しばね、引きばね、板ばねなどの種類に分けられ、あらゆる商品に使われています。日本の折り紙をヒントにして、様々な構造を試作し、今までにない特性を発見する。ここにものづくりの楽しみがあります。将来、ばねのようにあらゆる商品に使われる可能性を秘めています。名古屋大学との共同研究にてスーパーコンピュータ「不老」を使ったシミュレーションにも取り組んでいます。

図. 立っているときのシミュレーション、青色が当社の商品
©名古屋大学 西口浩司
図. 転んだときに衝撃が加わって2ミリ秒で気流を含めて変形した様子
©名古屋大学 西口浩司


ピンチはチャンス!? 超高齢社会向け産業創出、そして世界へ

世界一高齢者人口の割合が高い日本。転倒骨折で亡くなる方(10,202人*3)は、交通事故で亡くなる方(3,536人*3)より圧倒的に多く、命が助かったとしても寝たきりになって健康寿命を縮めている方がたくさんいます。
*3. 出典:厚生労働省 人口動態統計 主な不慮の事故 2021年。

高齢者人口の増加は、日本だけではありません。10年後のヨーロッパ全体の姿と言われているフランスのニース市では高齢者人口の割合が日本と同程度になっています。また、アメリカではフロリダ州の地方に多くの高齢者が流入して、高齢者に優しい街が作られています。ブラジル、インド、中国、インドネシア等、世界中で高齢者人口が増加していて、いずれ日本と同じ課題を抱えることになります。現在、世界を牽引する日本の産業は、自動車、化学、半導体製造装置、ロボットでしょうか。今後20年間で超高齢社会向けの産業を創出し、様々な商品を世界へ広めて、これらの産業の仲間入りができればと願っています。

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